2017.2.15 大友良英

 
 
 
「外」での1曲目の演奏は大友自身も初めてだという演奏だった。
 
クリップでプリペアドされた短いシングルトーンが様々な音質で、まるで水滴のように爪弾かれることから始まり、時間が経つにつれ音が重ねられいつのまにか複層的で重厚な音に変わっていた。しかしそれは即興でよくある、ルーパーで音を重ねて、あるシークエンスを作るといったようなものではなく、独立した音と音の交わりがどんどん複雑化していくようなものだった。
 
最初弱音で始まった演奏も気がつくと爆音になり、その影からアイラーのゴーストのフレーズが立ち現れる。
メロディやフレーズとは無関係な、音質に特化したような音の複雑な連なりの中で現れるアイラーのメロディはこの上なくもの哀しく、たくましく聴けた。
それと同時に複層化した単音の連なりもとても豊かに響いて聴こえ、短い音の連なりに時間が伸び縮みしたような不思議な感覚を覚えた。
後半になるとロングトーンの爆音の重なりになったがそれでも最初の短い音の交わりあいから生まれる不思議な時間感覚は保たれたままだった。
 
その演奏を聴きながら師匠である高柳昌行のシングルトーンでありながらおそるべき豊かさで迫るロンリー・ウーマンを思い出していた。
圧縮した情報をカットアップ・コラージュによって構築していたGROUND-ZEROのスピード感は壮絶だったが、音質と時間軸の操作ともいえるシンプルでありながら豊かな情報を含ませたこの時の演奏も不思議なスピード感にあふれていた。
 
初めての試みだというこの1部の演奏は今まで数多く聴いてきた大友ギター・ソロでも1,2位を争うほど印象に残るものだった。2部最初の教訓IIでの大友自身の唄。何度も聞いているが音程さえ危ういはっきりいって拙い歌は大友自身の歌への関わり方や志向が透けて見えるようで面白い。
 
その後は「ブルー」「青い凧」、そしてアンコールでは静かな「カナリア」とサントラ中心の演奏に。
思えば1部でやったような単音中心の演奏はサントラではずっと以前から行われてるのだった。
GROUND-ZERO時そしてONJO、ONJTからの変化ではなくずっと以前から1音に込められる情報の豊かさは達成されていたのかもしれない。
 
新境地ともいえる1部の演奏は思えば変化ではなく充実であったのかもしれない。
 

 
 

石橋正二郎
 
F.M.N.Sound Factory主宰。
79年の関西NO WAVEツアーより国内外の音楽家のライヴ主催を現在まで継続。
93年カセットレーベル開始、翌年CDレーベルに変更。
KBS京都「大友良英のjamjamラジオ」準レギュラー。