Photo: Katayama Tatsuki

 
 
 

2017.7.8
空間現代『オルガン』

 
 

 衝撃だけでできている音楽。ここには、メディアの制約によって区切られた数分という時間単位もなければ、メロディという時間単位もない。ききながらカウントしようとしたけれど、すぐに止めてしまった。そんなことでこの音楽をつかまえられるわけがない。これは、5拍子だとか11拍子だとかポリリズムだとかいうことばで理解できる可算音楽ではない。いつ飛んでくるかわからない弾丸のように、聞き手を襲う。不可算の、分かちがたい音楽。それでいて、彼らのやっていることはけして、自動小銃のような機械的な速さに身を委ねることではない。
 
 三人がそれぞれある速さで音を叩くときに危うく浮かび上がる、未知の言語がそこでは生みだされており、聞き手は、既知の言語で予測することのできないその繰り返しに対して、常にわずかに遅れをとる。メロディによって先を予測する音楽の習慣から解き放たれ、わたしはただ足を痙攣させながら、放たれる一撃ごとに震えている。リズムに乗っているのではない。撃たれているのだ。そんなことが60分続くことが果たしてありうるのか。実はあっという間だった。
 
 嘘かまことか、パリでの「春の祭典」の初演で、ブーイングをする紳士の後ろで興奮した若者がダン、ダンと曲に煽られるように足を踏み鳴らしていたという話が私は好きなのだが、あれはこういうことだったのか。

 
 
 

細馬宏通

1960年、兵庫県生まれ。京都大学大学院理学研究科博士課程修了。現在、滋賀県立大学人間文化学部教授。バンド「かえる目」では作詞作曲も手がけ、ボーカル/ギターとして活躍中。主な著書に『ミッキーはなぜ口笛を吹くのか』(新潮社)、『うたのしくみ』(ぴあ)、『介護するからだ』(医学書院)などがある。